新型コロナウイルスの感染拡大により、不要不急の移動が制限された結果、会議などもWebを活用したものの利用が増え、人との接触を減らす取り組みが行われております。
さて、協同組合を運営していると、必ず理事会と総会は開催しなければいけません。しかしながらこのご時世、不要不急の集まりではないにしても、一つの会場で複数人が会合を行うというのは、世間的にも、健康的にも不安があります。
そのため、今回は理事会の書面議決について、その方法を解説します。
理事会の書面議決といっても、2種類あります。
1.理事の何人かが書面で決議に参加する理事会 2.最初から理事を参集せず、書面のみで理事会を開催したことにする「みなし理事会」
どちらも理事会として認められますが、その開催や議決の方法で違いがありますので区別して活用しましょう。
こんな方におすすめ
- 理事会を書面議決で実施しようとしてる人
- 理事会の人の集まりを避けたい人
- みなし理事会の意味が分からない人
- 理事会の書面議決に関する様式が欲しい人
Contents
理事会について
組合の理事会とは、そもそも、組合運営や業務執行関する意思決定機関の役割があり、中小企業等協同組合法(以下、中協法)では下記のとおりの位置づけです。
(理事会の権限等)
第三十六条の五 組合は、理事会を置かなければならない。
2 理事会は、すべての理事で組織する。
3 組合の業務の執行は、理事会が決する。
理事会の決議について
組合の理事会の決議について、中協法では以下のとおりとしております。
(理事会の決議)
第三十六条の六 理事会の決議は、議決に加わることができる理事の過半数(これを上回る割合を定款又は規約で定めた場合にあつては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款又は規約で定めた場合にあつては、その割合以上)をもつて行う。
2 前項の決議について特別の利害関係を有する理事は、議決に加わることができない。
3 組合は、定款の定めるところにより、理事が書面又は電磁的方法により理事会の議決に加わることができるものとすることができる。
4 組合は、理事が理事会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき理事(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査権限限定組合以外の組合にあつては、監事が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の理事会の決議があつたものとみなす旨を定款で定めることができる。
5 理事が理事の全員に対して理事会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を理事会へ報告することを要しない。
6 会社法第三百六十六条(招集権者)、第三百六十七条(株主による招集の請求)及び第三百六十八条(招集手続)の規定は、理事会の招集について準用する。この場合において、必要な技術的読替えは、政令で定める。
難しい書き方になっているとは思いますが、要約すると次のとおりです。
☑理事会は理事の過半数が出席して、その過半数で決議する。
☑決議する内容で特定の理事自身の会社が儲かるような契約等の場合は、該当する理事はその議決に参加できない。
☑定款に定めていれば、理事は書面やメールでも議決に参加できる。
☑みなし理事会は理事が提案した議案について全員が書面かメールでその提案した議案に同意する意思表示があれば、可決があったものとみなします。
☑理事会に報告すべきことを理事が全理事に通知していれば、報告があったこととします。
☑招集権者等は会社法を準用する。
中協法の第36条の6第3項、第4項は「できる条文」となっているので、組合の定款によっては削除している可能性あります。しかし、この内容が組合の定款に記載されていないと書面決議書やみなし理事会が実施できませんので、一応、組合の定款も確認してください。
なお、定款の参考ひな型では一般的に下記のように記載していると思いますが、歴史のある組合で、この数十年定款変更をしたことがないとなると、記載されていない可能性も有りますので注意してください。
定款の参考条文
(理事会の決議)
第〇条 理事会の決議は、議決に加わることができる理事の過半数が出席し、その過半数で決する。
2 前項の決議について特別の利害関係を有する理事は、議決に加わることができない。
3 理事は、書面又は電磁的方法により理事会の議決に加わることができる。
4 理事が理事会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき理事(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の理事会の決議があったものとみなす。
5 理事が理事の全員に対して理事会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を理事会へ報告することを要しない。
定款において、条文の第3項と第4項が定款に記載されていれば書面決議やみなし理事会が実施できます。
一般的な理事会の書面決議とみなし理事会の違い
理事会の書面議決とは、通常の理事会において、開催日にその会場へ行くことができない理事が、書面をもって議案の賛否についての意思を届け出るものでありますが、当日の理事出席者が何人かいることが前提で成立するものです。
例)全理事数10名:当日出席理事5名、書面出席3名 計出席理事8名 → 成立
全理事数10名:当日出席理事1名、書面出席5名 計出席理事6名 → 成立
全理事数10名:当日出席理事0名、書面出席9名 計出席理事9名 → 不成立
そもそも、理事会は通常、理事長が招集権者であるため、最低でも理事長は出席できる設定で開催日は設定されます。ですので、理事会開催日に理事が誰も来なかったというは非常にレアケースになると思いますが、通常の理事会開催の案内をして、その会場に理事が誰もいないような状況であれば、理事会は不成立となり日時を改めて開催する必要があります。
みなし理事会は、案内時点で理事を集めずに、書面だけで決議事項の同意を得ることで理事会があった事とする旨の連絡をして実施するものです。
一般的な理事会と違い、理事が集まる必要は無いのですが、全理事からの同意を得ないと理事会は成立しないという特徴があります。
例)全理事数10名:同意書提出理事10名 → 成立
全理事数10名:同意書提出理事 9名 → 不成立
以上の違いを考慮すると、
一般的な理事会として開催の手続きをふみ、結果として全理事が書面議決書で全議案賛成で回答があった場合、それがみなし理事会として認められるかという疑問がでてきます。
これについては正直、微妙なところなのですが、おそらくですが、理事会の成立は難しいかと思います。
全理事が全議案賛成ということであれば、同じ結果となることは想定できるのですが、理事会とみなし理事会とでは、定款においても決議の方法が区別され、議事録の様式も違いますので、結果は同じでも辿る行程が違えば認められない可能性があります。
ですので、一般的な理事会として開催するのか、みなし理事会とするのか、案内時点で明確にしてから取り組みましょう。
理事会を招集する
「通常の理事会」と「みなし理事会」では案内から少しその様式が少しちがいます。
通常の理事会
〇月〇日に第〇回理事会を開催しますので、理事の方はご参集お願いします。都合が合わない場合は書面議決書を提出してください。というスタイルになるので、案内は次のとおりです。ご参考ください。
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みなし理事会
理事会を開催することなく、書面とその内容に対する全理事からの同意をもって、理事会の決議があったことといたします。というスタイルなので、内容は次のとおりです。ご参考ください。
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なお、組合の監事が業務監査権も有している場合は同じく同意書の提出が必要となります。業務監査権も有する監事は1000人を超える組合員を有してる組合なので、日本においてもそれほど多くは無いと思いますが、一応組合の定款確認しておきましょう。
定款
(監事の職務)
第〇条 監事は、いつでも、会計の帳簿及び書類の閲覧若しくは謄写をし、又は理事及び参事、会計主任その他の職員に対して会計に関する報告を求めることができる。
2 監事は、その職務を行うため特に必要があるときは、本組合の業務及び財産の状況を調査することができる。
上記と同じ内容であれば、監事の権限が会計に限定されておりますので、みなし理事会後の監事の同意書等の作成や提出は不要です。
理事会の議事録
一般的な理事会とみなし理事会では議事録においても違いがありますので注意してください。
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まとめ
総会の展開方法は基本的に議案ありきで進められます。定款にもよりますが、総会では、あらかじめ通知していた事項以外の議案を提出する場合も、出席している組合員の2/3以上の賛同を得ないと議場に諮れません。そして最終的には議案に対する可否を数で決めていきます。
対して、理事会は形式的に議案があって展開されますが、基本的には総会のような緊急議案の概念はありません。組合運営に関する様々事項について意見交換と議論をする場所であるとされているためです。必要だとする事項についてはいつでも検討できることが理事会のあるべき姿ということです。
しかしながら、書面による「みなし理事会」の場合は自由な意見交換ができません。そのため腑に落ちない議案については1人の意見でも重要とし、理事全員からの同意を得られない場合は、試案の承認を法的に認めず、検討するよう配慮がされているのだと考えられます。